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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)9号 判決 1981年2月24日

原告 株式会社尚山堂

被告 特許庁長官

主文

特許庁が昭和五四年一一月一六日、同庁昭和五三年審判第一二五三九号についてした審決を取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二原告の請求の原因及び主張

一  特許庁における手続の経緯

原告は、別紙目録(一)記載の商標(以下「本件商標」という。)につき、指定商品を第二九類「サイダー、ラムネ、コーラー飲料、ガラナ飲料、炭酸水、鉱泉水、清涼飲料のもと、レモン水、果実飲料」とし、昭和四四年商標登録願第八九五五一号に係わる商標と連合の商標として、昭和四八年七月九日に商標登録出願(昭和四八年商標登録願第一一一六九二号)した。ところが、昭和五三年四月二五日拒絶の査定を受けたので、同年八月一二日審判を請求し、右事件は昭和五三年審判第一二五三九号事件として審理されたが、特許庁は、昭和五四年一一月一六日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、右謄本は同年一二月一九日原告に送達された。

二  審決理由の要旨

本件商標は、前項に記載したとおりのものである。

これに対し、登録第八三九八五号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙目録(二)に表示した構成よりなり、大正五年一〇月一三日に登録出願され、指定商品を旧旧第四〇類「ジンジヤエール、シヤンピンサイダー、レモン水、ストロベリー、ペアース、飲料ニ適スベキ炭酸水(鉱泉水)及其他他類ニ属セザル飲料一切(但シラムネ、曹達水、密柑水ヲ除ク)」として大正六年一月三一日にその登録がなされ、その後、同一三年六月一一日登録回復、昭和一一年一〇月二七日、同三二年二月一三日、同五二年八月三日の三回にわたつて商標存続期間の更新の登録がなされているものである。

そこで、本件商標と引用商標との類否について判断すると、本件商標は「サンパツク」「SUNPACK」の片仮名文字及び欧文字を上下二段にゴシツク書体をもつて横書き併記してなり、該構成文字中、後半部の「PACK」の語は「包み」を意味する英語であつて極めて親しまれている語とみることができるものであり、更に、「パツク」の片仮名文字は該英語の字音を書表わしてなるものであつて外来語として親しまれている語とみることができるものであるばかりでなく、これら各語はいわゆる「パツク」されてなる商品を指称する語として本件商標の指定商品はもとより他の食料品などにも普通に使用されているのが取引の実情に照らし明らかなところであり、該各文字部分は商標としての識別力の乏しい部分とみるのが相当であるから、自他商品の識別標識となり得る部分は、前半部の「SUN」及び「サン」の各部分にあるものといわなければならず、そうとすれば、取引の草草の間にあつてはこれら前半部の文字部分から生ずる称呼をもつて取引されることも決して少なくないものとみられるから、本件商標からは簡潔に「サン」の称呼も生ずるものといわざるを得ない。

他方、引用商標は、別紙目録(二)に表示したとおり、種種の文字及び図形との結合よりなるものと認め得るところのものである。

しかして、該構成中には、太陽の図形を中央部に、また該図形の上部に「Sun」の文字をそれぞれ顕著に表わしてなるものであるから、このような引用商標が商品に附されて取引される場合、該図形と文字が相まつて簡潔に「サン」の称呼をもつて取引されることも少なくないものというを相当とする。それ故に引用商標は「サン」の称呼をも生ずるものと認めざるを得ない。

してみれば、両商標は「サン」の称呼を共通にする類似のものといわなければならない。

従つて、本件商標と引用商標とはその外観及び観念の異同について論及するまでもなく、称呼上類似の商標であり、かつ、両商標の指定商品もまた、同一若しくは類似の商品と認定し得るから、結局、本件商標は商標法第四条第一項第一一号に該当し、登録を受けることができない。

三  審決を取消すべき事由

(一)  審決は、本件商標を次のように二重に分離観察している。

(イ) まず片仮名文字と欧文字部分とに分離し、

(ロ) 片仮名文字の「サンパツク」及び欧文字の「SUNPACK」を前半部の「サン」又は「SUN」と、後半部の「パツク」又は「PACK」とに分離している。

しかし、右(ロ)の分離観察は、本件商標の次のような特性から行過ぎた分離であり、経験則適用を誤つた不当なものであると考える。

(i) 片仮名文字の場合も欧文字の場合も、その構成文字は同書同大、同間隔にて構成上の軽重なく一連不可分に書かれている。

(ii) 欧文字も片仮名文字も、その構成文字の綴りは全体として特定の意味や観念がなく、いわゆる「造語」である。

(iii) 「SUNPACK」は、構成文字が欧文字であるが英語とは考えられない。けだし英語にはこのようなスペルの単語や熟語がないうえ、せつかく一連不可分に書かれているものを無理に「SUN」と「PACK」とに分離して認識するような英語の用法はないからである。

(iv) また、両者ともその音節数は比較的短く、このままでも充分簡潔であるから、取引の際にこれ以上短く省略する必要性がない。

つまり、本件商標は以上のような具体的特性を有するため、これを分離して観察しなければならない格別な事情があるとは認められない。というよりも、前記特性を無視してまで分離観察することのほうが不自然で妥当性を欠くものである。

商標の類否判断の観察方法のひとつに要部観察が認められていることは、原告も知るところである。しかし、本件商標の場合、要部観察をするための前提条件である「部分的にとらえるのが相当な場合」に該当しないのに、審決はこれを該当するかのごとく誤認しているのである。

(二)  審決は本件商標の「パツク」「PACK」なる文字の意味をとり違えている。審決は本件商標の構成文字の中にある「パツク」「PACK」の文字だけを抽出して、これが英語の「包む」という意味の単語「PACK」又は該英語の字音を書表わす外来語「パツク」であるかのごとく主張する。そして、本件商標の「パツク」や「PACK」もいわゆる「パツク」されてなる商品を指称する語であると認定している。

しかし、この審決の認定は、次の点で誤つている。

(イ) 本件商標はその構成上一連不可分なのに格別の事情もなく不自然に構成を二要素に分離して「パツク」「PACK」の部分だけを抽出した点。

(ロ) 「パツク」「PACK」なる文字の他の意味や使われ方を考慮せず、どんな場合でも一律に英語の「包む」という単語の意味に用いられていると誤認した点。

(イ)については(一)で詳しく述べたのでここでは特に(ロ)について詳述する。

商品識別標識の一部に「パツク」の構成文字を用いることは多いが、それを大別するとその意味は次の二通りあることがわかる。

(i) その第一は審決と同様に「包む」という観念の英語「PACK」又は同じ意味を有する外来語としての「パツク」である場合。

(ii) 第二は商標の語調を高め、商標のイメージを強くするために他の字句と共に用いる「語尾用語」である場合。

前者は観念が明らかなところからその意味と矛盾しない使い方をした場合である。例えば、真空パツクとか、ダブルパツク、ハンデイパツク等のように記述的言葉と結合した場合、又はウオーターパツク、ミネラルパツク、麦茶パツク等のように被包装物を表わす言葉と結合した場合等がそれである。

一方、後者は特定の意味を有するわけではないが、音声学的に「パツク」は三字音とも口音中の破裂音で、しかも両唇音の「パ」と促音「ツ」軟口蓋音「ク」とが組合さつたものである。すなわち、当該「パツク」は破裂音と促音の組合せにより聞手に強い注意換起力を有する特性があつて語呂もよく言葉の連想イメージも悪くない。従つて、宣伝広告的機能を有する商標の選定に際して語尾用語として「パツク」を用いることは商標全体をより目立ち易く、語調を高めるのに適した方法である。このため、商標として「××パツク」と単なる語尾用語として、その観念とは無関係に用いられることが多い。他方取引の草草において、しばしば観念のない語尾用語として使用されていることを経験によつて知つている一般需要者は当該「××パツク」という商標を看たときに、当該「パツク」の部分だけを抽出せず組合せた他の構成文字との相互関係を考慮して全体観察し、(i)の「包む」の意味なのか(ii)の語尾用語として用いられているのかを判断して商標としての識別機能の有無を認識するのが普通である。

しかるに審決は、単に構成文字の中に「パツク」という字があるからというだけで、その前後の他の構成要素との関係やその用法等をまつたく考慮せずに短絡的に(i)の意味に用いられたものと決めつけている。これは明らかに審決が本件商標中の「パツク」の意味を取違えたものであり、その認定自体が誤りである。

すなわち、本件商標の「サンパツク」及び「SUNPACK」は、確かにその構成文字の一部に「パツク」「PACK」の文字を含んではいるが、その構成上の特性、結合した他の構成文字との関係、用法等を総合的に考察するとこれは単なる語尾用語であること明らかである。従つて本件商標は全体で一つの要部であり、その称呼も「サンパツク」と一連に淀みなく称呼するのが自然であり、それ以外の称呼が出る余地はない。

(三)  審決は従来の登録例に著しく反している。

叙上のような原告の主張は、特許庁における過去の考え方や判断基準と共通しており、数多くの同種例と比べても本件商標の判断だけが矛盾しているものとなることが明らかである。すなわち、本件商標と同じ第二九類に属し、「パツク」以外は既登録商標と同じ出願商標で登録されたものが多数存する(甲第二号証ないし第一三号証参照。)。審決がいかに過去における判断と矛盾した判断をしているか明白である。

(四)  被告は、本件商標「サンパツク」「SUNPACK」が取引にあつて「サン印のパツク商品」の意味において取引きされると主張するが、「サン印のパツク商品」というのは、何をどう包んだものなのか不明であり、日本語として特定な意味を有するものでなく、一般需要者の取引時における普偏的な解釈の仕方とは考えられない。

それよりも、需要者は本件商標を見たとき「サンパツク印」であると素直に解釈するのが普通であると考える。本件商標は、その構成文字の配列状態、組み合わされている語の意味や性格、語法、語尾用語として使用されている慣習、全体の意味等を総合的に判断すれば、構成要素をなす文字や語を独立した部分として理解すべきか否かおのずと定まつてくる。

第三被告の答弁及び主張

一  原告の請求の原因及び主張の一、二を認め、三を争う。

二  近時、包装産業における包装技術はとみに発展し、各種材料を利用して各種の商品が包装され販売されているのが実情であり、紙容器に収納された状態のものを中心に、包まれた状態のものを一般に「パツク」「PACK」と称し、これらの文字は、各種の商品に記述的方法をもつて使用されていることの事実は乙各号証に示すとおりである。

しかして、商標の識別力の有無についての判断も過去の判断と本審決当時においての判断とは異なることが生じ得ることは当然なことといわなければならないから、本件商標を構成する文字中、「パツク」「PACK」の文字に対する判断も、乙各号証によつて明らかなとおり、該語は、本件の指定商品中に含まれているところの果実飲料の分野のみでなく広く食料品の分野においても、これらの商品に関しては「包まれた状態のもの」を意味する語であり、専ら商品の品質ないし商品の型式若しくは商品の様相を表示するものとして、その使用の頻度の高いことからして、もはや、商標としての識別力がない語であるとみるのが取引の経預則に適合するものであり、従つて、需要者は本件商標中の「パツク」、「PACK」の文字をこのような意味を持つものとして認識することも少なくないものといわなければならない。

しかも、本件商標を構成する文字中、「サン」、「SUN」の語は「太陽」を意味する語として広く一般に親しまれている語である。

してみれば、本件商標は、その要部は前半部分に明確に書されてなるところの「サン」、「SUN」の語の部分に存するものといわなければならないものであつて、これが取引にあつては「サン印のパツク商品」の意味合において取引されるものであることは明らかである。

それ故、本件商標は、これの要部である部分より「サン」の称呼を生ずるものとみてもなんら差支えない。

このことは、たとえば、乙各号証中にみることのできるCO・OPパツク」、「澤之鶴パツク」、「creapPACK」などが、それぞれ△△印のパツク商品の意味において取引され、その要部が「CO・OP」、「澤之鶴」、「creap」などの部分にあるとみられるものであることからして、「コープ」、「サワノツル」、「クリープ」などの称呼によつて取引されるものであることと同様である。

従つて、果実飲料その他食料品一般についてパツク、PACKなる各語が広般に使用し始められた時期は必ずしも明白でないとしても、これらの語が、広般に使用されていない時期において、これらの語を含む商標、いわゆるパツク商品を表わすものとされないで出願公告あるいは登録された例があるとしても、現在のように、これらの語が広く使用され需要者になじまれている状態にあるときは、必らずしも、過去の例にとらわれることなく、判断すべきものであるから本件商標について、分離判断した審決になんら違法はない。

理由

原告の請求の原因及び主張の一、二は、当事者間に争いがない。

そこで、本件審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。

本件商標は、別紙目録(一)記載のとおり、「サンパツク」、「SUNPACK」の片仮名文字及び欧文字を上下二段にゴシツク書体をもつて横書き併記してなるものであるところ、審決は右のうち、「パツク」、「PACK」の部分は「包み」を意味する外来語として親しまれているのみならず、これらの語は「パツク」されてなる商品を指称する語として普通に使用されているのが取引の実情に照らして明らかであり、該各文字部分は商標としての識別力に乏しい部分であり、自他商品の識別標識となり得る部分は「サン」及び「SUN」の各部分にあり、従つて本件商標からは「サン」の称呼も生ずるとしたものである。

「パツク」、「PACK」が「包み」を意味する英語として親しまれていると認められることは、審決のいうとおりである。しかしながら、「パツク」、「PACK」の語の付く商標がすべて、審決のいうように、「パツク」されてなる商品を指称するものとして普通に使用されているのが取引の実情であるとは認められず、その証拠はない。

被告は、「パツク」「PACK」の語は、本件の指定商品中に含まれているところの果実飲料の分野のみでなく広く食料品の分野においても、これらの商品に関しては「包まれた状態のもの」を意味するものであり、専ら商品の品質ないし商品の型式若しくは商品の様相を表示するものとして、その使用の頻度の高いことからして、もはや、商標としての識別力がない語であるとみるのが取引の経験則に適合するものであるから、本件商標の要部は「サン」、「SUN」の語の部分に存し、これが取引にあつては「サン印のパツク商品」の意味合において取引されることは明らかであり、このことは、たとえば、乙各号証中にみることのできる、「CO・OPパツク」、「澤之鶴パツク」、「creapPACK」などが、それぞれ△△印のパツク商品の意味において取引され、その要部が「CO・OP」、「澤之鶴」、「creap」などの部分にあるみとられるものであることからして、「コープ」、「サワノツル」、「クリープ」などの称呼によつて取引されるものであることと同様である、と主張する。

しかしながら、成立について争いのない乙第二ないし第四号証にみられる「CO・OPパツク」、「澤之鶴パツク」、「creapPACK」、は、商標がもともと「CO・OP」、「澤之鶴」、「creap」である商品を包装(パツク)したものであり――このことは、乙第二号証に記載されている「CO・OPパツク」はヨーグルトをパツクしたものの広告であると認められ、また、同号証には「CO・OP」の商標を付した多数の食料品、日用雑貸の広告が記載されていること、乙第三号証に記載されている澤之鶴パツクは、澤之鶴は清酒の商標として著名であるところから、清酒澤之鶴を紙容器にパツクしたものの広告を示しているものと認められること、乙第四号証も固形牛乳の商標として著名なクリープを袋にパツクしたものを示していると認められるところから明らかである――「CO・OPパツク」、「澤之鶴パツク」、「creapPACK」自体が商標ではないと考えられるから、右乙号証の記載からして、本件商標も右乙号証のものと同様、その要部は「SUN」、「サン」の部分にあり、本件商標は、取引にあつては「サン印のパツク商品」として取引されることは明らかであるとすることはできない。本件商標は、右乙号証のものと異なり「SUNPACK」、「サンパツク」自体が商標なのである。

右のとおり、「パツク」、「PACK」の語の付く商標がすべて、審決のいうように、「パツク」されてなる商品を指称するものとして普通に使用されているのが取引の実情であるとはいえないから、それが取引の実情であるとし、本件商標のうち自他商品の識別標識となり得る部分は「サン」、「SUN」の部分にあるとし、本件商標を「サン」、「SUN」と「パツク」、「PACK」とに分断して引用商標と対比した審決は、この点において違法であるといわなければならない。

本件商標は、片仮名文字、欧文字いずれも同一書体、同大、同間隔で一連に書されてなり、音節が短かく、従つてこれを特に「サン」の部分と「パツク」の部分に分断して呼称しなければならないとする必然性はなく、取引においては一連に呼称されるものとみるのが自然である。

以上のとおりであるから、本件商標からは「サン」の呼称も生ずるとし、これと引用商標とを対比して、本件商標は引用商標に類似するとした審決は、他の点についての判断をするまでもなく、違法であるからこれを取消し、訴訟費用は敗訴の当事者である被告に負担させることとして主文のとおり判決する。

(裁判官 杉本良吉 高林克巳 楠賢二)

目録(一)<省略>

目録(二)<省略>

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